Marvel & Norse Myths (日本語)
ここ最近、北欧神話に関する本を数冊続けて読んでいる。
きっかけはマーベル映画。マイティソー(2011)、アベンジャーズ(2012)、ソー:ザ・ダークワールド(2013)を観たところで、オリジナルの神話も知っておくべきかなと何やら義理のようなものを感じたのだ。
そしたら面白いではないですか、北欧神話の独特の世界観。火の国の炎と氷の国の冷気が虚無の中で出会い最初の生命が生まれ、神々が殺した原始の巨人の体から世界が作られただなんて。荒々しく暴力的でさえあるけれど、九つの世界とそれを繋ぐ世界樹ユグドラシルの成り立ちは豊かで生き生きとしている。そしてラグナロクまたは『神々の黄昏』と呼ばれる世界の終末。これは過去のことなのか、これから起きることなのか。北欧神話に語られる世界は奇怪で深遠で、すっかり魅了されてしまった。
さらに魅力的なのは北欧の神々の不完全さ。狡猾で秘密の多いオーディン、力強く単純な性質のトール、いたずら者でずる賢いロキ。残念なことに、北欧神話の大部分は受け継がれることなく失われてしまったという。他の様々な神や女神について、もっと読んでみたかった。
今のところの個人的なお気に入りはロキ、善と悪を行う者(The doer of good and evil)だ。……トム ヒドルストンの影響もあるかもしれない。ええ、ありますとも。(あと美しく奔放なフレイヤもよい。現存する伝承の中で生き生きと描かれている女神は彼女くらいしかいない。)ロキの悪戯のせいで神々はしょっちゅう厄介事に巻き込まれるが、窮地から彼らを救い出すのもまたロキだ。
例えばロキがトールの妻シフの黄金の髪を切ってしまったとき、彼はドワーフたちの工房から黄金の糸で作った髪の毛だけでなく、様々な宝物を神々にもたらすことになる。オーディンの槍グングニル、トールの槌ミョルニル、フレイの船スキーズブラズニルなどなどだ。
ロキの狡知と気まぐれがなければ、善いことも悪いことも起こらない。北欧のこれらの物語にいのちを与えているのは彼なのだ。わたしはというと、昔から複雑で矛盾を抱えたキャラクターに惹かれる傾向がある。ロキは間違いなくそうした人物のひとりだろう。オーディンも興味深い存在ではあるけれど、あまりにも謎めいていて強力で、恐れは抱いても好き嫌いの対象にはなりにくそうだ。
最初に北欧神話を読みだしたときは、単純にマーベルと神話の違いを比べるつもりだった。トールとロキが神話でどう描かれているのか気になったのだ。古い伝承で描かれるロキは、マーベルのロキみたいに移り気で自滅的なのに、大変な美男でセクシーなバッドガイというわけではないだろうと思ったのだ。
それでどうだったかというと、わたしが間違っていたかもしれない。神話のロキもマーベルのロキ同様、善悪の境を行ったり来たりする存在だ。12世紀のアイスランドの歴史家で詩人のスノッリは、ロキについてこう書いている。「ロキは嘘の創始者、神と人間の失脚を招く者。彼は容貌は美しいが、性質は邪悪でひどく気まぐれだ。彼はしばしばアース神を大きなトラブルに巻き込むが、狡猾な策略でもって彼らを救い出しもする」もちろん、神話のロキはトールに兄弟コンプレックスも持っていないし、巨人の出自と知ってアイデンティティの危機を経験したりもしない。彼はトールの兄弟ではないし、巨人の血筋であることはオープンにされている(ようだ)。とはいえ巨人の子ながらオーディンと義兄弟となりアース神の中に迎えられたという、曖昧な立ち位置の複雑な存在ではある。彼を父の承認に飢えた第2王子に据えて、自己疑念と破滅の種を仕込み、全く新しいキャラを作り上げたマーベルとトムヒドルストンにあっぱれと言いたい。
とりあえず北欧神話のラグナロクまでの物語は軽く把握したかなと思うので、今度は英雄が活躍するサガが気になる。とくにワーグナーの『ニーベルングの指輪』の下地になったというヴォルスンガ・サガについて読んでみたい。
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今のところわたしが読んだ本は4冊。
・パドレイック コラムの『北欧神話』
・R I ペイジの『北欧神話』
・Neil Gaiman の Norse Mythology
易しい英語で北欧神話の世界を気軽にのぞいてみたいと言う人には、コラムの原書をおすすめしたい。テキストとオーディオの両方を無料で入手できる。平易だが穏やかで詩的な文章だ。
テキスト:The Children of Odin: The Book of Northern Myths by Padraic Colum - Free Ebook
オーディオブック:The Children of Odin by Padraic Colum - Librivox
もっと溌剌としてみずみずしい文章がよかったら、Neil Gaimanの Norse Mythology。著者の読むオーディオブックは、著者の北欧神話に対する愛情が伝わってくるようで大変良かった。