Black, Two Sugars, Please

BBC SherlockとCabin Pressureにどハマりした英語好きのブログ初心者

Casabianca

裏切りのサーカス』と『Cabin Pressure』意外な共通点

BBCドラマ『SHERLOCK』にはまってから、Benedict Cumberbatchの出演作品をよく観るようになったのですが、シリアスなエスピオナージュ映画『裏切りのサーカス』とシチュエーションコメディ『Cabin Pressure』に意外な共通点を発見しました。'Casabianca'/ カサビアンという古い詩です。

 

 

裏切りのサーカス( Tinker Tailor Soldier Spy (2011))を見たときのこと。

映画の舞台は冷戦時代のイギリスで、MI6内部の二重スパイ/mole をMI6を半ば引退した George Smiley (Gary Oldman) が数少ない手駒とともに見つけ出すというスパイスリラーです。

Moleがソ連側のスパイとの密会に使う部屋を探しあて、マイクの具合を確認するためにか、Smileyの部下のPeter Guillam (Benedict Cumberbatch) が詩を暗唱する場面があります。

Benedict Cumberbatch in Tinker Tailor Soldier Spy (2011)

(画像:Uragiri no Sâkasu (2011) )

"The boy stood on the burning deck, 

Whence all but he had fled;

The flame that lit the battle's wreck..."

低くお祈りのように呟かれる詩。謳われる少年の孤高とSmileyに孤独に忠誠を捧げる Guillam本人とが重なります。淡々としたなかにピンと張り詰めたもののある印象的なシーンです。

 

この詩が同じく Benedict Cumberbatchさんが出演するBBCラジオドラマでコメディの『Cabin Pressure』でも引用されているのです。(詳しくは下のリンクを)

 

kanakana009.hatenablog.com

ただCabin Pressureではおもしろおかしくパロディ化されています。ウィキペディア Casabianca (poem) - Wikipedia でも言及されていました。

In the BBC Radio 4 sitcom Cabin Pressure Series 1, Episode 6, "Fitton," Douglas (Roger Allam) makes fun of Martin (Benedict Cumberbatch) by parodying the opening line of the poem, "The boy stood on the burning deck, whence all but he had fled!", which is immediately followed up by "His heart was in his mouth but, lo! His cap was on his head!" from Carolyn (Stephanie Cole).

イギリス人なら冒頭だけならだれもが知るような、有名な詩のようです。上記のウィキペディアによると、1798年のナイルの海戦で亡くなった Orient艦のCasabianca艦長の幼い息子Giocanteのことをうたった詩のようです。今ではCabin Pressureのように、パロディ化して引用されることがほとんどのようだけど、20世紀半ば頃までは小学校で暗唱させられていたとか。 

以下、原文に続けて私なりに訳してみました。

詩の内容を知って映画のあの場面を見ると、また一味違った感慨があるのではないでしょうか。 

 

*****************

 

Casabianca (原文)

 

Casabianca (1826, Felicia Hemans)

 

The boy stood on the burning deck,

Whence all but he had fled;

The flame that lit the battle’s wreck,

Shone round him o’er the dead.

 

Yet beautiful and bright he stood,

As born to rule the storm;

A creature of heroic blood,

A proud, though childlike form.

 

The flames rolled on – he would not go,

Without his father’s word;

That father, faint in death below,

His voice no longer heard.

 

He called aloud – ‘Say, father, say

If yet my task is done?’

He knew not that the chieftain lay

Unconscious of his son.

 

‘Speak, father!’ once again he cried,

‘If I may yet be gone!’

– And but the booming shots replied,

And fast the flames rolled on.

 

Upon his brow he felt their breath

And in his waving hair;

And look’d from that lone post of death,

In still yet brave despair.

 

And shouted but once more aloud,

‘My father! must I stay?’

While o’er him fast, through sail and shroud,

The wreathing fires made way.

 

They wrapped the ship in splendour wild,

They caught the flag on high,

And streamed above the gallant child,

Like banners in the sky.

 

There came a burst of thunder sound –

The boy – oh! where was he?

Ask of the winds that far around

With fragments strewed the sea!

 

With mast, and helm, and pennon fair,

That well had borne their part,

But the noblest thing which perished there,

Was that young faithful heart.

 

 

カサビアンカ (拙訳)

 

フェリシア・ヘマンズ

 

少年は全員が退避した、

燃える甲板に立っていた。

艦の残骸を燃やす火が、

辺りの死体を照らしていた。

 

嵐を制圧すべく生まれたかのように、

美しく凛々しく少年は立っていた。

高潔な血を引く彼は、

幼くとも誇り高かった。

 

炎が近づいてきても逃げようとしない、

父親の命令なくしては。

だが父は息も絶え絶えで、

その声はもはや聞こえない。

 

彼は叫んだ「ねえ、お父さん、ねえ、

僕の務めはまだ済まないのですか?」

倒れた艦長にはわが子の声が届かぬことに、

少年は気付いていなかった。

 

「命令を、お父さん!」もう一度少年は叫んだ、

「まだ逃げてはいけませんか?」

──しかしその声に応えるのは砲撃の音のみ。

炎は急速に広まっていた。

 

額と波打つ髪に、

炎は息を吹きかけた。

しかしなお少年は 死の波止場からただ一人、

絶望の目で勇敢に周囲を見渡し。

 

そしてもう一度だけ声を張り上げた、

「お父さん、まだ艦を守るべきですか?」

帆と縄を伝って、少年の頭上を、

巻き付くように炎が走った。

 

すさまじい勢いで炎が艦を包んだ。

火は遙か高みの旗さえ捕らえ、

空にはためく横断幕のように、

勇敢な少年の頭上を走った。

 

そのとき雷鳴のような爆音が響いた。

少年よ──彼はどこに?

答えを知るは巻き上がる爆風のみ。

艦は瓦礫となり海に散った。

 

立派に役目を果たした、

帆、舵輪、美しい軍艦旗とともに、

海に消えたもっとも崇高なものは、

幼く忠実な魂だった。