Black, Two Sugars, Please

BBC SherlockとCabin Pressureにどハマりした英語好きのブログ初心者

"Stiff Upper Lip"って?

'Stiff Upper Lip' という表現、耳にされたことがありますか?

「こわばった上唇」?「かたく結んだ唇」?

 

先日和訳を掲載した、Cabin Pressureの初回 'Abu Dhabi' に出てきた表現なのですが、今回はこの表現について少し調べてみました。


まずどこで使われていたのか、Cabin Pressureのお話を振り返ってみます。

 第1話でFitton空港への着陸許可が遅延されたため、燃料不足を懸念してBristolへダイバートをしたマーティン。キャロリンからBerk (ばか) 呼ばわりされ「ダイバート禁止」を言い渡されます。そこでマーティンが応戦して返した台詞がこちら:

    

'I see. So if an engine catches fire on take-off, shrug shoulders, keep upper lip stiff and press on for Portugal. Got it.'

「そうか。じゃあもし離陸中にエンジンが出火しても、仕方ないさと肩をすくめ、動じることなくポルトガルまで飛行し続けろって言うんだな。分かったよ」

 

この 'keep upper lip stiff' という表現は、脚注にも書いたように「困難に動じず、決然と冷静に立ち向かう様子」を表し、感情を抑えた禁欲的なイギリス人というステレオタイプを反映しています。どうやらアメリカが作ったもののよう。

BBCのイギリス文化を紹介するサイトの動画で、Stiff Upper Lipの表現と、そこに表現されるイギリスの国民性に深くかかわる映画が紹介されていました。(“The myth of the stiff upper lip.” BBC-Culture)1945年公開の 'Brief Encounter' です。

'Brief Encounter' は第一次世界大戦中を舞台に、駅の待合室で出会った既婚の男女が強く惹かれ合いながら、互いの家庭へと帰っていくまでを描いた純愛映画。公開された1945年、第二次世界大戦は家庭や夫婦の関係にも傷を残し、'Brief Encounter' に見られるような男女の邂逅や夫婦関係の揺らぎは珍しくなかった。だからこそ公開当時に大きな共感を呼んだのだとビデオでは解説されています。当時、映画館でこの映画を見た男性のうち、何と4割もの人が涙したそう。感情を押し殺し、あるべき道を戻ろうとする男女に、それだけ強く共鳴したのですね。

さらにビデオはこう締めくくります。「Brief Encounterが公開されたころ、英国のstiff upper lipの観念は過去のものとなりつつあった。戦争で傷つき、古い価値観が否定される変化の時代にあって、この映画が象徴する英国の伝統的観念はイギリス人にとって慰めでもあったのだろう」

なるほど。Stiff Upper Lipは、郷愁と誇りをもって振り返られるような、もはや失われた価値観だということでしょうか。


ところで、私が最初にStiff Upper Lipというフレーズを聞いたのは、Emma ThompsonとDustin Hoffman の映画『新しい人生のはじめかた』(原題: Last Chance Harvey)を見たときでした。アメリカ人のハーヴェイ(Dustin Hoffman)は、離婚後別居していた娘の結婚式に出席するためロンドンに飛ぶ。だが、仕事で頭がいっぱいの彼は披露宴を辞退して帰国しようとするが、飛行機に乗り遅れてしまう。やけ酒を飲みに入った空港のバーで、ハーヴェイは仕事上がりの空港職員ケイト(Emma Thompson)に出会い……。(新しい人生のはじめかた - 作品 - Yahoo!映画

という内容なのですが、ケイトがStiff Upper Lipについて語る面白いシーンがあります。 

www.youtube.com

「感情や思いを抑えていたのは昔のこと。ダイアナ妃が亡くなって以来英国人の意識は変わった。アメリカ人が見本を示してくれたの。もうStiff Upper Lipとはさよならよ」

ということはつまり、第二次世界大戦を境にに別れを告げたはずの「Stiff Upper Lip」に、イギリス人はダイアナ妃の悲劇の際にもまた別れを告げた…という不思議な図式が浮かび上がります。「もう過去のもの」と言いながら、国民性(というものがあるのだとすれば)の根の部分に生き続けている価値観ということなのでしょうか。

Cabin Pressureにも冒頭のMartinの皮肉を始め、大っぴらな感情表現を嫌ったり、初対面の人に話しかけることに抵抗の強いイギリス人の性質をネタにした自虐的ジョークが散見されます。そうした傾向は日本人にとってもそれほど他人事ではないように思いますが、実際にイギリスと日本の両方で生活をされたことのある人はどう感じるのでしょう。いつかイギリスに行く機会があったら、Stiff Upper Lipは本当に過去のものなのか、ぜひアンテナを張って観察してみたいところです。